「歯ぐきから血が出る」「口臭が気になる」――こうしたサインの多くは歯周病によるものです。近年、この歯周病が大腸がん(結腸・直腸がん)と関連する可能性が、国内外の研究で相次いで示されています。関連がある=必ず発症する、という意味ではありませんが、口の健康が全身の健康と直結することを示す重要な知見です。最新の研究動向も踏まえて、ポイントをわかりやすく整理します。
【1】どんなエビデンスがあるの?
大規模研究やメタ解析では、重度の歯周病ほど消化管がん(特に大腸がん)のリスクが上がるという結果が報告されています。統計学的な限界を指摘する論文もありますが、関連を示す報告は年々蓄積しています。口腔ケアの強化が将来的な発症予防に寄与する可能性がある――これが現在の学術的コンセンサスに近い見方です。
【2】なぜ口の細菌が大腸に影響するの?
キーとなるのが口腔常在菌の一部です。なかでもFusobacterium nucleatum(フゾバクテリウム・ヌクレアタム:Fn)は、大腸がん組織内で高頻度に検出され、腫瘍の進行や治療抵抗性に関与する可能性が報告されています。Fnは腸粘膜に付着し炎症や免疫回避に関わる経路を活性化、抗がん剤に対するケモレジスタンス(耐性)にも関連し、予後不良と結びつくことが示されています。
また、歯周病の主要菌であるPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス:Pg)も、腫瘍微小環境の免疫応答をゆがめ、がんの進行を助長することが示唆されています。最新の研究では、Pgが細胞外小胞の性質を変えて免疫監視を回避させる仕組みや、炎症性シグナルの活性化を通じて腫瘍の増殖に寄与する経路が報告されています。
【3】「因果関係」は証明されたの?
現時点では、明確な因果関係の完全証明には至っていません。ただし、(1)口腔由来菌が腫瘍内で実際に見つかる、(2)がんの挙動や治療成績と相関する、という複数の線がつながりつつあり、“関連は十分に疑われる”段階と考えられます。したがって、口腔内の炎症(歯周病)を抑えることは、全身のリスク低減に資する可能性が高いといえるでしょう。
【4】40歳以降は“口”と“腸”の二本立ての予防を
日本の対策型がん検診では、年1回の便潜血検査(免疫法2日法)が推奨されています。便潜血陽性の場合は大腸内視鏡で詳しく調べます。定期的な歯科のプロフェッショナルケアとあわせて、「お口」と「腸」の両方を毎年チェックするのが現実的で効果的な方法です。
【5】当院がおすすめする実践ポイント
- 歯周病の早期発見・早期治療:歯ぐきの出血、腫れ、口臭、グラつきは要注意。スケーリング・ルートプレーニング、必要に応じて外科的治療を計画します。
- 毎日のセルフケア:フロスや歯間ブラシの併用で歯間部のバイオフィルムを徹底除去。電動歯ブラシの活用も有効。
- 生活習慣の見直し:喫煙は歯周病と大腸がん双方のリスク因子。禁煙支援とともに、よく噛んで食べる、野菜・食物繊維をしっかり摂るなど、腸内環境を整える工夫を。
- 全身疾患のコントロール:糖尿病は歯周病を悪化させ、がんのリスク修飾因子にも。医科・歯科連携で管理を。
- 大腸がん検診の継続:40歳以上は毎年の便潜血検査を。便に血が混じる、便通の変化が続くなどの症状がある場合は早めに受診を。
――まとめ――
歯周病は“お口だけの病気”ではありません。口腔内の細菌や慢性炎症が全身に波及し、大腸がんのリスクや治療成績に影響する可能性が、最新研究で裏づけられつつあります。定期的な歯科受診と毎日のセルフケア、そして年1回の大腸がん検診――三代歯科は、この二本立ての予防を患者さんと一緒に進めていきます。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
