「歯ぐきの腫れや出血くらい」と軽く見られがちな歯周病ですが、近年、認知症との関連が世界中で注目されています。結論から言うと、歯周病は認知症の“直接の原因”と断定はできないものの、発症や進行に関わる可能性が高いという研究報告が増えています。特に、歯を失うほど重い歯周病の方では、将来の認知機能低下や認知症のリスクが高い傾向が、国内外の追跡研究や統合解析で示されています。
なぜ歯周病が脳に影響するの?
ポイントは「慢性炎症」と「お口の細菌」です。歯周病が続くと、歯ぐきの炎症で作られるサイトカイン(IL-6、TNF-αなど)が血液に乗って全身へ広がり、脳の神経の炎症を促すことが分かっています。さらに、炎症が続くと血液脳関門(脳を守るバリア)が弱まり、脳がダメージを受けやすくなる可能性が指摘されています。
もう一つの鍵は、歯周病の主な原因菌の一つPorphyromonas gingivalis(P. gingivalis)です。この菌が作るジンジパインという酵素が、アルツハイマー病の特徴であるアミロイドβの異常や神経細胞の障害に関与するというデータが示され、動物実験や脳組織の研究でその存在が確認されています。将来的には、この酵素を標的にした治療薬の可能性も論じられています。
「歯の本数」と「かむ力」も大切
日本の前向き研究(久山町研究)では、残っている歯が少ないほど認知症(特にアルツハイマー型)の発症リスクが高いという傾向が報告されました。歯を失うとかむ刺激が減ること、食事の偏りや低栄養につながることも、脳の健康に影響すると考えられています。
「治療・ケアで下げられるリスク」はある?
因果関係を最終的に証明するのは難しいテーマですが、歯周治療や定期的なプロケアを受けている高齢者ほど、将来の認知症リスクが低い可能性を示す観察研究も出てきました。いずれも「関連」を示す段階で、過度な断定はできませんが、お口の炎症を抑える生活習慣は、脳にとってもプラスと考えてよいでしょう。
今日からできる実践ポイント(当院のおすすめ)
毎日のセルフケア
フッ素入り歯みがき剤で1日2回以上。歯間ブラシやフロスで歯と歯の間のプラークも除去しましょう。出血は“磨きすぎ”ではなく炎症のサインのことが多いです。
3〜4か月ごとの定期メインテナンス
歯周ポケットのチェック、専門的クリーニング(バイオフィルム除去)で慢性炎症を長期管理します。歯周病は再発しやすい“生活習慣病”です。
かむ機能の維持・回復
欠損は放置せず、入れ歯・ブリッジ・インプラントなどで早めに回復を。よくかむことは脳への刺激や栄養の取り方にも関わります。
全身のリスク管理
禁煙、糖尿病のコントロール、規則正しい睡眠・運動。これらは歯周病の悪化を防ぎ、全身の炎症を抑える最重要ポイントです。
早期受診
歯ぐきの腫れ・出血、口臭、歯のグラつき、噛みにくさを感じたら早めに受診を。自覚症状が乏しいまま進むこともあります。
最後に――“お口の健康”は“脳の健康”
最新の総説やメタ解析は、歯周病と認知機能低下・認知症の関連を支持する証拠が積み上がっているとまとめています。まだ最終結論ではありませんが、歯ぐきの炎症をコントロールし、歯をできるだけ残し、よくかむ——この基本が、将来の健康寿命を支える強い味方になります。気になる方は、まずは歯周病リスクのチェックからご相談ください。
※本記事は2025年の研究動向を踏まえて作成しました。医学知見は更新されるため、最新情報は受診時にご確認ください。
